【元校長直伝】学級崩壊を未然に防ぐ!「ありがとう」の仕組みで集団を育てる 教師の指導力

先生向け

現役の先生方、日々の学級経営、本当にお疲れ様です。ときどき校長のサムです。

「ありがとう」の指導といえば、「終わり(帰り)の会」や「人権週間」で『ありがとう集め』に取り組んでいる先生が多いはずです。これは、子どもたちが周りの優しさに気づくための大切な第一歩です。先生方の努力に心から敬意を表します。

しかし、その活動を続けていく中で、こう感じたことはありませんか?

「活動は定着したけれど、感謝が形式的になり、もっと深い優しさを子どもたちに育むにはどうしたらいいだろう…」

今日は、これまでの取り組みを否定するのではなく、その努力をさらに輝かせるための「もう一歩先の指導」を、ご紹介します。

キーワードは、「ありがとうを言う」という基礎の先に目指す「ありがとうを言ってもらう」仕組みへの進化です。


柱1:基礎の徹底!「当たり前」の中に気づきを育む

◆ 「1日〇回ありがとうを言おう」キャンペーン

まず、先生方が取り組んでいる「ありがとうキャンペーン」は、子どもの成長に欠かせない非常に重要なステップです。

「周りの人に感謝しようね。当たり前と思っていることの中に、当たり前じゃないことがいっぱいあるんだよ。」という気づきを与えることは、自己中心性を脱し、社会性を身につけるための基礎トレーニングです。

脳科学的にも、感謝の気持ちを表すことで自己肯定感や幸福感が高まるというエビデンスがあります。先生方の地道な声かけによって、子どもたちは「感謝することの心地よさ」を学んでいます。

この段階で、子どもたちが「ありがとう」を言えるようになったら、次はさらに深い人間的な成長を目指しましょう。


柱2:学級集団の雰囲気を変える「言ってもらう」仕組みへの進化

◆ 変革の鍵:「ありがとう」は与えられるものへ

学級を劇的に変え、子どもたちの心の底から優しさを引き出すには、視点を180度転換させます。

「どうしたら、自分以外の人からありがとうと言ってもらえるだろう?」

この問いは、子どもたちに「受け身の感謝」から「主体的な優しさ」へと意識をシフトさせます。

「ありがとうを言ってもらう」ためには、誰かに何か親切なことをしたり、思いやりのある行動をしなければなりません。ここで子どもたちの思考は、

  • 自分中心:「(誰かがしてくれたことに)ありがとうを言う」から
  • 他者中心:「(誰かを喜ばせるために)行動する」

へと変わり、学級内の自分以外の人に対して、積極的に思いをはせることが必要になってきます。

そして、誰かが喜んでくれたことが、自分の喜びや幸福感(自己有用感)につながるという、人間ならではの行動を経験します。この経験こそが、学級の雰囲気をガラリと柔らかくするのです。

◆ 「言ってもらう」ための具体的な仕組み

この仕組みを導入する際は、「ありがとうを言われた数を競う」のではなく、「誰のどんな行動に対してありがとうが生まれたか」を共有することが大切です。(もちろん最初は数を競うのでも構いません。子どもたちがちょっとしたあそび感覚でも、学級内にブームが起これば成功です。そして機を見て、先生が「あなたたちのやっていることはね、実は素晴らしいことなんだよ。」と価値づけしてあげることが大切です。

  1. 行動の具体化を促す: 「誰から言われたいか」を考えさせることで、相手の状況を想像した、一歩踏み込んだ親切を具体的に引き出す。
  2. 感情の共有を習慣化: 「ありがとう」と言われた後の相手の喜んだ表情と、自分が感じた心地よさを学級で短く共有する時間を設ける。(これが次の行動の動機となる)

柱3:校長室で見た「優しさの磁場」の秘密

これは私の経験談です。私が過去に勤めた学校に、Iという校長先生がいました。一見すると、昼行燈のような印象で、職員室でも特に目立った指導をするわけではありませんでした。しかし、その校長先生の口癖は、まさに「ありがとうね。」でした。何をしても、当たり前のことをしても真っ先に口から出てくる言葉は、「ありがとうね」でした。

この校長先生のことを悪く言う職員は、不思議とほとんどいませんでしたし、校長先生の周りには自然と感謝の出来事が集まっているように見えました。

今にして思えば、I校長先生の「ありがとう」は、相手の存在や行動を無条件に肯定し、受け入れるメッセージでした。これにより、校長先生の周りには「感謝されるような良い出来事」が自発的に集まってくる「優しさの磁場」が生まれていたのだと思います。

先生方が「言ってもらう仕組み」を実践する際、最も重要なのは、先生自身が子どもたちや同僚に「ありがとう」という感謝のエネルギーを先に放出することです。あなたのそのエネルギーこそが、子どもたちの主体的な優しさを引き出す土壌となります。


柱4:この実践が「教師としての信頼・評価」につながる理由

多忙な先生にとって、手間のかかる実践は避けたいのが本音でしょう。しかし、この「言ってもらう仕組み」は、あなたの教師としての指導力を、管理職へ示すだけでなく、保護者からの深い信頼を得るための最高の証拠になります。

1. 管理職(校長)が評価する指導力

管理職は、学級経営を見る際、「先生が指示しなくても、子どもたちが自発的に助け合えているか」という集団の内発的な成熟度に注目しています。

この「言ってもらう仕組み」は、子どもの自己有用感他者への貢献意欲を育て、集団を育てる指導力そのものを証明するからです。

2. 保護者からの深い信頼につながる評価

保護者が最も安心するのは、「自分の子が生き生きと、心穏やかに過ごせる環境」です。

  • 保護者の視点:
    • 学級にいじめやトラブルが少なく、雰囲気が「柔らかい」「落ち着いている」と感じる。
    • 子どもが「〇〇さんを助けたら、ありがとうって言われて嬉しかった」と、家庭で具体的なエピソードを話すようになる。
    • 先生の指導が、単なる学力だけでなく「人間性の成長」にまで及んでいると感じる。

子どもが家庭で「優しさのエピソード」を持ち帰るようになると、保護者は「この先生は、本当にうちの子を見て、温かく育ててくれている」と感じます。これにより、学校への信頼感と協力体制が強固になり、保護者対応の悩みそのものが減少していくという好循環が生まれます。


まとめ:今日から始める最初の一歩

まず、先生自身の「ありがとう」の回数を意識的に増やすことで、学級に優しい磁場を作りましょう。

そして、「当たり前の感謝」が定着したら、ぜひ「ありがとうを言ってもらう仕組み」へと進化させてください。

その小さな一歩が、必ず子どもたちの心に響き、やがて学級全体を「柔らかく、支え合う集団」へと変えていくエネルギーとなります。この実践は、あなたの教師人生で最も価値のある財産になるはずです。

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