――オリンピックと脳科学が教えてくれた、学びの土台
ミラノ・コルティナ オリンピックが始まりました。
これから、毎日感動を見せてもらえることにわくわくしていますが、
オリンピックのたびに、私は何度も同じ思いを抱いてきました。
それは、
「結果の裏には、積み重ねてきた時間がある」
という、ごく当たり前の事実です。
テレビに映るのは、ほんの数分の演技です。
しかし、その数分のために、選手たちはどれほどの時間をかけて準備してきたのでしょうか。
地味で、単調で、思うようにいかない日も含めた、長い時間です。
オリンピックで感じた「つながった瞬間」
オリンピック初日で、特に心に残ったのが
フィギュアスケート団体戦でした。
まず登場したのが、
三浦璃来選手と、木原龍一選手のペア、いわゆる「りくりゅう」ペアと
女子シングルの坂本選手です。
大舞台でありながら、二人の演技は驚くほど落ち着いていて、
一つ一つの動きに迷いが感じられませんでした。
演技後のインタビューで、二人はこう語っていました。
「やることはやってきたので、ある程度自信はあった」
「緊張しすぎることなく、今日は集中できていた」
その言葉を聞いたとき、
私は結果以上に、そこに至るまでの時間の重みに心を打たれました。
続いて演技を披露したのが、
女子の演技を任された 坂本花織選手 です。
坂本選手もまた、今の自分の力を存分に出し切る演技を見せてくれました。
試合後のインタビューでは、
「いい集中力だったと思います」
「自分のできる演技ができました」
と、静かに、しかし確かな手応えを感じさせる言葉を口にしていました。
この二つの演技と、その後のインタビューを聞きながら、
私は大きな感動とともに、自分の中で一本の線がつながる感覚を覚えました。
それは、
「大事な場面で力を発揮できる人は、特別なことをしているわけではない」
「日々、やるべきことをやってきた人なのだ」
という、これまで教育現場で何度も感じてきた事実でした。
私が大切にしてきた「鍛える」という考え方
私はこれまで、教育の中で
「鍛える」という言葉を使ってきました。
ただし、それは決して
厳しく追い込むことや、無理をさせることではありません。
- 毎日少しずつでも続けること
- 基礎をおろそかにしないこと
- すぐに結果が出なくても、あきらめずに積み重ねること
こうした当たり前のことを、当たり前に続ける
その姿勢を大切にしてきました。
子どもたちや先生たち、保護者の皆さんには「ABCDの法則」と伝えてきました。
「A:当たり前のことを、B:バカにせず、C:ちゃんと、D:できる人」が「できる人」
なんだよ――と。
毎日の音読や百マス計算練習などは、地味で目立ちません。
しかし、続けていくことで「考える余裕」が生まれ、
その余裕が、学びを深める力につながっていくことを、
私は何度も目にしてきました。
この度、あらためて腑に落ちた脳科学の話
そんな中、この度、
東京大学の言語脳科学の第一人者である酒井邦嘉教授が、
「非効率な学習が脳を創る」ことを、
脳科学の視点から明確に示した資料が公開されました。
これは、私がこれまで日々の学習で大切にしてきたこと
書かせ、考えさせ、書き直させてきた理由を
脳科学の言葉で説明したものにほかなりません。
そこには、
- 脳は、効率のよい学習よりも
繰り返し行われる学習を重要な情報として記憶しやすいこと - 手書きで考えることは、
思考を巡らせるのに適した速度であること - 速さを優先しすぎる学習は、
考える時間が足りなくなる場合があること
といった内容が書かれていました。
読んでいて感じたのは、
「新しい考え方を教えられた」というより、
これまで現場で感じ、実践してきたことが、すっきりと整理された
という感覚でした。
学習とスポーツに共通すること
オリンピックの選手たちは、
本番で必死に考えているようには見えません。
体が自然に動き、判断が迷いなく出てくる。
それは、考えなくてもできるところまで、鍛えられているからだと思います。
学習も同じです。
- 計算が身についているから、文章題に集中できる
- 音読が自然にできるから、内容理解に力を使える
基礎が身につくことで、子どもは自由になる。
これは、スポーツでも学習でも変わらない構造です。
保護者の方へ――今日からできる関わり
忙しい毎日の中で、
「できるだけ効率よく」と思うのは自然なことです。
でも、ときには、
- すぐに答えを教えない
- ゆっくり考える時間を待つ
- 日々の小さな積み重ねを認める
そんな関わりが、子どもの力になります。
実は、こうした親の関わりや感情のあり方が、
子どもの学びや自己肯定感に大きく影響することは、
海外の研究でも指摘されています。
以前、スタンフォード大学の研究をもとに、
親の情動コントロールと子どもの成長の関係についてまとめた記事があります。
▶︎ [スタンフォード式“魔法の言葉”で子どもが伸びる理由:家庭でできる実践法|元校長が紹介]
鍛えるとは、無理をさせることではありません。
信じて、続ける時間を一緒につくること
その積み重ねが、いざというときの集中力につながっていくのだと思います。
おわりに
オリンピックで見た選手たちの姿と、
脳科学の資料に書かれていた内容。
それらが重なったことで、
私はあらためて確信しました。
遠回りに見える学びこそが、子どもの力を育てている。
長年の実践の中で見えてきたのは、
学びも成長も、
決して派手な方法では進まないという事実でした。
家庭での声かけ、
日々の習慣、
見守る姿勢――
そうした一つ一つの積み重ねが、
子どもを内側から支えていきます。
この研究所では、
そうした“目立たないけれど大切なこと”を、
保護者の皆さんと一緒に確かめながら、
発信し続けていきたいと考えています。