【2学期スタート!】学級経営の礎を築く、「はい!」という返事の力
2学期がスタートし、子どもたちの顔には、夏休みを終えた高揚感と、少しの緊張感が入り混じっているように見えますね。
先生方もご経験があると思いますが、新学期、特にこの2学期のスタート時に、私が最も大切にしている指導があります。それは、一見当たり前のようですが、非常に深い意味を持つ「どんな呼びかけにも、必ず返事をさせる」という習慣です。
今日は、なぜこの小さな「返事」が、学級経営の成功に不可欠なのか、その教育的・心理学的な根拠についてお伝えしたいと思います。
返事をする学級が、何でも1番になってしまった。
ある年、私が校長を務めていた学校でこんな経験をしました。
修学旅行の見学先の水族館での出来事です。
うちの学校の子どもたちは、集合してもなかなか先生の注意事項が聞けていません。連絡事項を伝える以前に、個別の注意が何度もされます。そして、連絡事項を伝えた後からも、
「先生、○○はどうすればいいですか?」
「今、説明したでしょう。」
といったこんなやりとりです。そこに、本校の倍以上の子どもたちの学校が、後からやってきて、あっという間に集合して、指示を聞いて自由行動に散っていきました。
その後からきた学校の子どもたちは、先生が何か一つ話す度に「はい。」と返事をしていました。
私は、このエピソードと合わせて、先生方に「だまされたと思って、子どもたちに返事をさせてみてください。きっとクラスが変わりますから。」と話しました。すると何人かの先生は、取り組んでくれたのですが、長続きはしません。その中で一人の若い女性の先生だけが、ずっと指導を継続してくれていました。1,2か月もすると、そのクラスの子どもたちの姿に変化が見られ始めました。話の聞き方が変わり、何をするにも先生の指示が1度で通るようになるのです。小学校では児童会の子どもたちが、様々な取組を行い、その結果を表彰したりすることがあります。そのすべてを、この頃からこのクラスが独占し始めました。
そして、その先生のクラスの研究授業の様子を見て、学びの姿勢や子どもたちの育ちを目の当たりにして、驚いたのは、周りの先生たちです。
「ねぇ、T先生。どんな指導をしているの?」と尋ねると「私は、特には何にもしていません。しいて挙げるなら、以前校長先生が、おっしゃっていた返事をさせているぐらいです。」という言葉が返ってきました。
その年のまとめの研究会で、先生方が自ら、
「やっぱり、来年度は、全学級で返事の指導をきちんとやりましょうよ。」ということになりました。
「はい!」が育む、自己有用感という心の土壌
私たちは、子どもたちが「先生、私ここにいます!」という心の声を、たった一言の「はい!」で表現していることを知っています。
この呼びかけに対する応答は、子どもたちが**「自分の存在が認められている」という自己有用感**を育む最初のステップです。
脳科学的にも、自分の存在が承認されると、心は安定し、学習や活動への意欲が向上することが明らかになっています。つまり、「はい!」という返事は、子どもたちの心のエンジンに火をつけ、自己肯定感という確固たる土壌を育む、最もシンプルで強力な方法なのです。
指導と応答が織りなす「信頼関係」という橋

「返事」は、教師と子どもの間に「信頼」という見えない橋を架けます。
- 教師側: 子どもからの返事を受け取ることで、「私の言葉は届いている」という確信を得ることができます。これは、指導に自信を与え、次のアクションへと繋がるエネルギーになります。
- 子ども側: 呼びかけに答えることで、教師に自分の存在を伝え、「先生は自分を見てくれている」という安心感を得ます。
この双方向のやりとりが、言葉を交わさずとも、互いの存在を認め合う強固な信頼関係を築き、学級全体の一体感を醸成します。授業中の発言や困ったときの相談など、様々な場面で子どもたちが積極的に行動できるようになるのは、この信頼の土台があるからです。
返事をさせることが、管理的だと思われる先生も、おられるかもしれませんが、そんなことは決してありません。先生が何度も何度も同じ指示や問いかけをすること自体、無駄ですし、きちんと聞いている子にとってはノイズにしかなりません。子どもの学びの時間を奪ってしまうことにもなります。
1度で指示が通るようになることを想像してみてください。わくわくしてきませんか。
この2学期も、子どもたちの健やかな成長のために、日々向き合っていらっしゃる先生方と共に、この「返事の魔法」を大切にしていきたいと思います。
共に、子どもたちの未来を支える学級を創っていきましょう。
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